画家ホン・ヴァン 羊毛を絵画の世界に取り入れる

画家ホン・ヴァン 羊毛を絵画の世界に取り入れる

視覚芸術において、素材は常にスタイルや価値を形づくる重要な要素です。油絵具が古典派と結びつき、アクリルが現代的な息吹をもたらすのに対し、画家ホン・ヴァンは独自の道を選びました。それは、本来織物にしか用いられることのない羊毛を、独創的な絵画作品を通して絵画言語へと昇華させることです。

画家グエン・ティ・ホン・ヴァンは、障害を持つ子どもたちや恵まれない環境にある子どもたちを支援し、社会に溶け込む機会を作るために、ウール刺繍の工房を設立した。

 

 

ハノイのハンチュイ通りにある小さな部屋で、画家ホン・ヴァンは一本一本の羊毛と針を丹念に操り、生命力あふれる絵画を創り上げています。彼女の刺繍芸術への道を踏み出したのは、豪華なギャラリーからではなく、辺境の地を訪れ、少数民族や社会的弱者に手工芸を教える活動から始まったことを知る人は殆んどいません。


 

ハンチュイ通り(ハノイ)のホン・ヴァンさんの小さな家にあるウール刺繍工房。


 

 

 

ヴァンさんによれば、羊毛で絵を刺繍することは細心の注意と忍耐を要する仕事だそうです。1枚の作品を完成させるのに数か月、時には1年かかることもあります。最も難しいのは、針の扱いや糸の選び方ではなく、常に集中力を保ちながら、一針一針を均一に優しく布に刺していくことです。大作になると、太い針とわずか数ミリの細い羊毛を使う必要があり、その張力で手が痛くなるほどです。

画家ホン・ヴァンの羊毛画は、単にキャンバスや絵具の代替ではなく、新たな美的空間を切り開いています。羊毛の一本一本が配置され、織り交ぜられることで立体感、光沢、光、そして奥行きを生み出します。花や風景、人物の羊毛画は、形や色彩を再現するだけでなく、まるで三次元の物体のような生き生きとした感覚を与えます。こうした独自性こそが、ホン・ヴァンの羊毛画を現代美術展において徐々に地位を確立させているのです。

 

 

作品に使われている羊毛の色は非常に多彩で、見る人の目を引きつける。


 

 

ヴァンさんは自らの創作活動だけでなく、障害を持つ人々や自閉症、聴覚障害者、そして困難な状況にある人々を対象とした無料の職業訓練クラスも開いています。彼女の羊毛画は多くの企業や団体から贈答品として選ばれ、生徒たちにとってより安定した収入源なっています。

「子どもたちが一見不可能と思えることを成し遂げるたびに、私は芸術には癒す力があると信じるようになりました。私が一番望んでいることは、たくさんの絵を売ることではなく、生徒たちが仕事を得て、自分自身の価値を信じられるような確かな能力をつけることです。私にとって羊毛画は単なる芸術ではなく、一つの職業であり、多くの人にとって人生のチャンスなのです」とホン・ヴァンさんは語りました。

 

羊毛画の制作には、一針一針を均一かつ柔らかく布に
刺していくために絶対的な集中力が求められる。


 

 

現在、ヴァンさんのクラスにいつも来る生徒は10人を超えていませんが、需要は非常に大きいそうです。彼女の羊毛画は多くの企業や団体に贈答品として選ばれ、生徒たちにより安定した収入源をもたらしています。ヴァンさんは、このモデルを拡大させ、より多くの人々を助けるために、地域社会のからのさらなる支援を期待しています。

 

 
 

画家ホン・ヴァンの「Len Art」工房を訪れたフランスからの留学生のルイさんは 「羊毛の絵画は細部まで丁寧に作られ、とても美しく、感激しました。特にベトナムをテーマにした作品が一番気に入っています。ベトナムに来て1か月以上が経ち、ダナンやサパを訪れましたが、ベトナムの風景や自然が本当に大好きです」と話していました。


文:ガン・ハー
撮影:カイン・ロン/ベトナムフォトジャーナル


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